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水戸地方裁判所 昭和52年(ワ)96号 判決

原告

株式会社常陽銀行

右代表者

青鹿明司

右訴訟代理人

黒沢克

被告

株式会社大蔵商事

右代表者

小林茂

右訴訟代理人

星野恒司

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実《省略》

理由

一原告主張の請求の原因(一)ないし(三)、(五)ないし(七)及び(九)の各事実は当事者間に争いがない。

二本件不動産について昭和四七年五月三〇日前記根抵当権設定契約を原因として原告を権利者とする順位一番の根抵当権設定登記が経由されていること、右根抵当権設定登記において極度額の記入がされていないことは当事者間に争いがない。

しかるに原告は右根抵当権設定登記において極度額が記入されていないとしても順位一番の根抵当権者として後順位の抵当権者に対抗しうる旨主張し、被告はこれを争うので、この点について検討する。

そもそも根抵当権が設定されたときは、第三者に対抗するために根抵当権設定登記がなされることを要するところ、その登記においては、その根抵当権の担保すべき債権の範囲とともにその債権を担保する限度額である極度額が必要的記載事項というべく、もし右事項が登記されない限り他の債権者、抵当権者、目的物件の第三取得者等の第三者に対し右根抵当権を対抗しえないものというべきである。

これを本件についてみるに、〈証拠〉によれば、原告は庄司安之と共同して司法書士立原清を代理人として昭和四七年五月三〇日本件不動産について同日付の前記根抵当権設定契約を原因とする根抵当権設定登記申請書を水戸地方法務局に提出して受理されたが、右申請書の内容には、極度額金五、四〇〇、〇〇〇円、債権の範囲、銀行取引、手形債権、小切手債権、根抵当権者原告、設定者庄司安之、債務者有限会社庄司建設と記載されていたこと、同法務局登記官は、右申請書に基づいて直ちに本件不動産についての各登記簿に順位一番として前記申請にかかる根抵当権設定の記入登記を実行したが、その際右申請書にある「極度額金五四〇万円」を右登記に記入するのを遺漏したこと、その後右遺漏された極度額の記載が更正されないうちに、昭和四八年六月二五日本件不動産について被告を根抵当権者とする順位二番の根抵当権設定登記がされたことが認められる。このような事実関係のもとにおいては、原告の前記順位一番の根抵当権は、その必要的登記事項である極度額が、登記簿上の記載において、一度は存在してその登記が完全な対抗力を有するに至つた後、滅失し若しくは抹消され、或いは転写、移記に際して遺脱されたというものでなく、登記簿上の記載において極度額が当初より全く存在しなかつたというものであるから、もし更正登記等によつて極度額の記入がされた場合であれば格別、これが更正されていない現状においては、第三者たる被告の順位二番の根抵当権に対抗しえないものといわざるをえない。

三そうすると、被告は、原告に優先して、前記根抵当権の被担保債権の弁済のために右根抵当権の目的物件である本件不動産の売却代金の交付を受けることができ、原告はこれを排斥することはできないものというべきである。

四したがつて、右売却代金について被告に原告に対する優先権がないことを前提として、本件競売事件における配当表中の被告の交付額を取消したうえ、新たな配当表の作成を命ずることを求める原告の本件請求は理由がない。よつて、原告の被告に対する本訴請求を失当として棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(下澤悦夫)

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